「あなたは、話せばわかりあえると思ってる」
「あなたは、言葉を尽くして話しあえばわかりあえると思ってる」
と言われたことがある。
かなり前の出来事だが、それでもそのとき私はすでに30歳をこえていたと思う。
衝撃だった。
「言葉を尽くして話しあってもわからないことがあるのか」と。
誇張ではなくその瞬間まで私は
「(主に二者のあいだで)誠意をもって言葉を尽くしてどれだけ話しあっても、わかりあえない」
ことを想像したことがなかった。
ほんとうに。ただの一度も。
まったく。
いまは「そういうこともある」と思う。
さらに
「本質的にはほぼすべて、人と人とはわかりあえない」
と思う。
「あなたは、言葉を尽くして話しあえばわかりあえると思ってる」
と言ってくれた人とその瞬間のことを、私はたぶん死ぬまで決して忘れない。
感謝をもって。
わかりあえないとわかったいまでも、ずっとそのことを考えている。
そしてこれからもおそらく何度も何度も考え続ける。
答えがかわっても、かわらなくても。